高松高等裁判所 昭和57年(う)305号 判決 1983年3月17日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中一〇〇日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人三原一敬作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
所論は量刑不当の主張である。
そこで記録を精査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、本件は、被告人が養女紀美(昭和四四年五月三日生)を連れ、四国八十八ヶ所巡りの旅を続ける途中、その宿泊費用などに窮した結果、右紀美を利用して巡礼先の寺などから金員を窃取しようと企て、昭和五七年二月上旬ころから同年四月一九日ころまでの間、一三回にわたり、その都度刑事未成年者である右紀美に命じ、同女を使用して、原判示の一三ヶ所において現金合計約七八万七七五〇円及び菓子缶等物品六点(時価合計約三二一〇円相当)を窃取した事案であるところ、被告人は昭和五四年五月戸籍上三度目の妻和恵と婚姻し、同女の連れ子である前記紀美を養子として入籍していたものであるが、被告人が右和恵にしばしば暴力を振うため同女は昭和五五年一〇月末紀美を残して家を出てしまい、被告人の実子中元敏和が交通事故で死亡したこともあつて、被告人は紀美を連れて巡礼の旅に出、本件犯行を犯したものである。紀美は当時小学六年から中学一年に在籍すべき年齢であつて未だ幼く頼るべき人もないことから被告人を嫌いながらも付き従つていたものであり、被告人は同女を学校にも行かせず長期の旅に連れ出したばかりか、その間同女が被告人に逆らう素振りを見せるときは、同女の顔にタバコの火を押しつけたり、ドライバーで同女の顔をこすつたりして同女を被告人の意のままに従わせ、本件窃盗に利用していたものであつて、犯情極めて悪質である。そして、犯行の回数、被害額ともに多いうえ、被害弁償はなされておらず、さらに被告人は昭和四二年五月、多数回にわたり実子中元敏を使つて車に当たらせ示談金等の名目で金員を騙取した詐欺罪により懲役四年に処せられた前科を有することを考えると、被告人の本件刑責は重いといわなければならず、従つて、被告人の反省改悛の態度、年齢等所論指摘の諸事情を十分斟酌しても、被告人を懲役三年に処した原判決の量刑はやむを得ないところであつて、これが重過ぎ不当であるとはいえないから、論旨は理由がない。
よつて、刑訴法三九六条、刑法二一条、刑訴法一八一条一項但書を適用して、主文のとおり判決する。